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【整形外科専門医が解説】変形性膝関節症の治療④ 膝周囲骨切り術

今回は変形性膝関節症の治療の中で、膝周囲骨切り術について解説します。

自分の関節を温存でき、膝の痛みを根本から改善できるとても優れた手術方法であり、最近手術件数が右肩上がりで増加しています。

「骨切り術」という恐ろしいネーミングを払拭するため、「こつきりん」というゆるキャラも考案されています。

引用:中山寛先生のTwitterblog

下肢アライメント

下肢アライメントを考える際に重要になるのが機能軸です。

機能軸は荷重軸とも言い、大腿骨頭中心から足関節中心を結ぶ線のことで、体重の通り道と考えて下さい。

右下肢を正面から見た図

正常な下肢アライメントでは下肢機能軸が膝関節の中央付近を通るため、膝にかかる体重は、膝の内側と外側へ均等に分散されます。

右下肢を正面から見た図

しかし上図のように、O脚やX脚のように下肢アライメントが悪くなると、荷重軸は膝の中央を通らなくなってしまい、内側もしくは外側どちらか一方に負担がかかってしまいます。

その結果、O脚では内側の関節軟骨に、X脚では外側の関節軟骨にダメージが蓄積して変形性膝関節症が進行してしまいます。

O脚やX脚では、その原因がどこにあるのか、つまり「変形の中心」を同定することがとても大切です。

膝周囲骨切り術では、変形の中心で骨を切って下肢のアライメント・荷重軸を矯正します。

高位脛骨骨切り術

高位脛骨骨切り術とは

日本人の変形性膝関節症のほとんどは、膝関節の内側の関節軟骨がすり減ってしまい、O脚を呈するタイプです。

右膝を正面から見たレントゲン

上のレントゲンを見て下さい。

脛骨の近位部(膝に近い方)が内側に傾いていることが分かると思います。
このレントゲンのように、日本人のO脚は、脛骨近位部の内方傾斜(変形中心が脛骨近位部)が原因であることがほとんどです。

前述のように、O脚では体重が膝関節の内側にかかるため、ますます負担が集中して関節軟骨の損傷が進み、痛みも強くなるという悪循環をたどってしまいます。

この悪循環を断ち切るのが骨切り術です。
骨を切って少し角度を変えることで、O脚をX脚に矯正します。
荷重軸を比較的キレイな軟骨が存在する外側に移動させて、内側の痛んだ部分への負担を減少させることで痛みの改善を図ります。

変形中心で矯正するのが原理原則であり、日本人の変形性膝関節症に対しては、高位脛骨骨切り術が最も代表的な手術となっています。
脛骨の上の方、つまり膝関節寄りの高い位置で骨を切るので、このような名前で呼ばれています。

代表的な高位脛骨骨切り術

日本人のO脚は脛骨近位部が変形の中心であり、この部位で骨切りを行うことでO脚をX脚に矯正するのが、高位脛骨骨切り術です。

代表的な高位脛骨骨切り術として
 「内側開大式」高位脛骨骨切り術
 「外側閉鎖式」高位脛骨骨切り術
があります。

内側開大式高位脛骨骨切り術は、脛骨の内側から外側に向かって骨を切って、内側を開いて矯正する方法です。

外側閉鎖式高位脛骨骨切り術は、脛骨の外側から楔(くさび)型に骨を切り取り、外側を閉じて矯正する方法です。

詳細は後述しますが、内側開大式は外側閉鎖式と比べて、矯正の角度に限界はありますが、侵襲や合併症が少ないため、近年この方法を施行する施設が増えています。

ここでは最も行われている高位脛骨骨切り術である、内側開大式にフォーカスを当てて説明していきます。

「内側開大式」高位脛骨骨切り術

変形性膝関節症に罹患した日本人では、脛骨の近位部に変形中心があることが多く、高位脛骨骨切り術の良い適応となります。

この手術は脛骨近位部の内方傾斜を矯正することで、下肢のアライメントを整え(O脚をX脚に矯正して)、膝の内側に偏った荷重を外側に移動させることで痛みを改善させます。

高位脛骨骨切り術の中で最も行われている、内側開大式高位脛骨骨切り術について説明します。

手術の概略

関節鏡

骨切り術に先立ち、まずは膝の中を関節鏡でチェックします。

痛んでしまった関節軟骨や半月板をキレイにしたり、場合によって関節内の再生を促すような処置を行います。

関節鏡は清潔な水を灌流しながら行うので、関節内に溜まっている膝の痛みを誘発する物質を洗い流すことも可能です。

骨切り

内側から脛骨近位部に切れ込みを入れ、内側を任意の角度開くことで、O脚をX脚に改善させます。

骨切り部の開大および人工骨挿入

骨切りを行なった後、目標の下肢アライメントになるまで、骨切り部を開大していきます。

内側開大式の高位脛骨骨切り術では、開大させる角度の微調整がしやすいというメリットがあります。

開大させて出来たスペースには、人工骨を挿入します。
人工骨を挿入することで、開大部の力学的強度を増加させ、骨の癒合にも有利に働きます。
人工骨は数年かけて自分の骨に置き換わります。

プレート設置

最後に開大部をプレートとスクリューで固定して手術を終了します。

プレートやスクリューは主にチタン製で、MRIなどの画像検査も可能です。
また材質の強度をアップさせたり、日本人の骨に適した形状となるように固定材料も日々進化しています。

内側開大式高位脛骨骨切り術の特徴

内側開大式高位脛骨骨切り術は、O脚変形のために内側に偏った過度な負担を、外側に移動させることで痛みを改善させる手術です。

代表的な特徴を以下に列挙します。

内側開大式高位脛骨骨切り術の特徴

・ 痛みは良く改善される
・ 自分の関節が温存されるので、関節機能が維持される・違和感が少ない
・ 日常生活に制限はなく、スポーツや重労働も可能
・ 手術が体に及ぼす侵襲は比較的少ない
・ 骨が癒合するまで、痛みが多少続く
・ 機能回復にはしっかりとリハビリを行う必要がある      など

手術の適応

変形性膝関節症に対する非常に有用な手術である高位脛骨骨切り術ですが、良好な術後成績のためには手術の適応(患者さんの状態)を遵守することが大切です。

内側開大式高位脛骨骨切り術が適応になる患者さん

・ 内側だけが痛んでいて、比較的膝の変形が少ない
・ 膝の可動域が保たれている
・ 活動性が高い
・ 手術後にリハビリを積極的に行うことができる        など

上に挙げたのが、内側開大式高位脛骨骨切り術の適応となる一般的な項目です。

適応外にはなりませんが、高齢・肥満・喫煙者では適応を慎重に決める必要があります。

<高齢>
  高位脛骨骨切り術に決まった年齢の制限はありませんが
   一般的に上限は70歳〜80歳まで
   元気で活動性が高い方
   骨粗鬆症が進んでいない方
  が適応になります。

<肥満>
  高度の肥満(BMI>30)は術後成績が不良になる可能性があります。

<喫煙者>
  ニコチンは骨癒合を阻害することが知られており、注意が必要です。

そのため、手術前にはダイエットや、禁煙外来への受診が勧められます。

高位脛骨骨切り術が適応とならないのは、以下の通りです。

 ・ 膝蓋大腿関節や関節外側に変形がある(膝の内側以外にも異常がある症例)
 ・ 関節リウマチ
 ・ 膝周囲に感染やコントロール不良な皮膚疾患(アトピーや乾癬など)がある
 ・ 内科的疾患で、麻酔や手術が困難な場合

手術後の流れ

施設の状況によって入院期間やリハビリの進め方などは異なりますので、担当の先生によく話を聞いてみてください。

ここでは一般的な手術後の流れを説明します。

手術後は創部にドレーン(骨切り部に血が溜まるのを防ぐ管)が入っていますが、手術後1〜2日でドレーンを抜いて、リハビリが始まります。

リハビリは専門の理学療法士のもと、筋力トレーニングや可動域訓練、歩行訓練などを行います。

歩行や階段昇降に自信がついて、日常生活動作が十分に行えるレベルに達したら退院となりますが、一般的に入院期間は術後3〜4週程度です。

退院後の職業復帰は、膝への負担が少ない仕事(事務職など)であれば退院後早々に可能です。
しかし重労働やスポーツへの復帰には、筋力の回復や骨癒合傾向の確認が必要なため、少し時間を要します。

手術の際に挿入した金属(プレートおよびスクリュー)は骨癒合を確認後、手術後1〜2年で抜去することが薦められています。

合併症

内側開大式高位脛骨骨切り術での代表的な合併症について記載します。

内側開大式高位脛骨骨切り術の合併症

・ 感染
・ 神経損傷
・ 血管損傷
・ ヒンジ部の骨折
・ 深部静脈血栓症/肺塞栓症 など

順番に解説していきます。

感染


どんな手術であれ、一定の割合で術後感染は発生します。

自分の脛の内側を触ってみてください。皮下脂肪が非常に薄く、脛骨が触れると思います。

内側開大式高位脛骨骨切り術では、この部分を切開し、骨を切って、金属を設置します。

皮膚直下に金属があり、外界のバイ菌に晒されるリスクが高くなるので、注意が必要です。

神経・血管損傷


膝の後ろ側には大切な神経・血管が走行しているため、骨切りの際に傷つけないように十分注意して手術を行います。

以前「膝の解剖」で、伏在神経の枝である膝蓋下枝について解説しました。

内側開大式高位血骨切り術では、傷口の関係でこの神経が傷ついてしまい、下図の水色部分(傷口の外側)の感覚が鈍くなることが知られています。

ヒンジ部の骨折


内側開大式高位脛骨骨切り術では、脛骨の内側から外側に向かい切れ込みを入れ、外側を支点にして内側を開大します。

この支点のことを「ヒンジ」といい、実際には薄皮一枚(5mm程度)残っているイメージです。

手術操作や、開大する量が大きい時(変形が強い)などでは、ヒンジが骨折を起こすことがあります。


ヒンジが骨折を起こすと、骨癒合に不利となり、遷延癒合・偽関節(なかなか骨がくっつかないこと)となり、疼痛の残存やプレート・スクリューの折損リスクがあります。

そのため手術後はCTを撮影して、ヒンジ部の骨折がないかチェックすることもあります。

まとめ

今回は変形性膝関節症の手術の中で、関節温存手術の中で最も日本で行われている高位脛骨骨切り術である内側開大式高位脛骨骨切り術について解説しました。

膝の痛みがあるが、高い活動性を維持したい患者さんが増えたことで、関節温存手術のニーズは高まっています。

骨切り術という怖いネーミングですが、優れた徐痛効果があり、手術方法の改良や機材の改善により比較的安全に行える手術となってきており、今後も手術件数は増加すると考えられています。

運動療法や薬などで十分な鎮痛が得られず、日常生活に支障がある変形性膝関節症の方は、一度かかりつけ医で相談してみてはいかがでしょうか?

次回は、変形性膝関節症の手術で最も行われている人工膝関節置換術について解説します。