当サイトをご覧頂いている皆さんは、膝の痛みや腫れ、歩行困難などの辛い症状に悩まされていると思います。
膝関節を専門に扱う整形外科専門医が、変形性膝関節症により膝が痛む原因からその治療方法まで、複数回に分けて網羅的に解説していきます。
分かりやすい言葉で、正しい内容をお伝えしていきますので、よろしくお願いします。
変形性膝関節症とは
近年膝痛の患者さんが急増しており、潜在的な患者数を含めるとその数は約3000万人にも上ると推察されています。
整形外科疾患の中で、膝痛の有病率は腰痛についで第2位です。
そもそも変形性膝関節症とはどういう病気なのでしょうか?
日本整形外科学会のホームページから一部抜粋・要約すると
原因と病態
日本整形外科学会より引用
原因は関節軟骨の老化によることが多く、肥満や遺伝子も関与しています。
また 骨折、靱帯や半月板損傷などの外傷、感染の後遺症として発症すること
があります。
症状
男女比は1:4で女性に多く見られ、高齢者になるほど罹患率は高くなります。
主な症状は膝の痛みと水が溜まる事です。
と記載されています。
変形性膝関節症は長年の膝への負荷により、膝の軟骨がすり減って炎症が起きて関節が変形してしまう病気ですが、膝痛を訴える患者さんの実に90%以上が、変形性膝関節症が原因と考えられています。
変形性膝関節症は高齢者ほど発症しやすく、日本では60歳以上の約60%の方が変形性膝関節症と言われています。
日本の高齢化は進んでおり、今後も患者数は増加していくことが予想されます。
加齢だけが原因ではなく、肥満やスポーツ外傷、膝関節周囲の骨折なども変形性膝関節症が発症する要因になります。
また変形性膝関節症は女性に多く見られるという特徴があります。
女性は男性よりも膝を支える筋力が弱いことや、軟骨の健康を保つ女性ホルモンの分泌が更年期以降に減少するためと考えられています。
- 加齢
- 肥満
- 怪我
- 女性
- 筋肉の衰え
- 膝への負担が大きい仕事や生活習慣
- 遺伝 など
前述のように、膝痛の原因として最も多いのが変形性膝関節症ですが、本当に変形性膝関節症かどうかは専門家の診察を受けない限り分かりません。
まずは整形外科を受診し、診察・検査を受けるようにして下さい。
最初から大きい病院を受診する必要はなく、まずは近所で開業しているクリニック(かかりつけ医)を受診することが推奨されています。
大きい病院に受診することで安心感があるようですが、初期の検査や治療内容に大差はありません。
かかりつけの先生が必要と判断した場合(病気や症状の程度、症状がなかなか改善しない時など)には紹介状を記載してもらい大きい病院を受診しましょう。
私は大学病院で勤務していますが、かかりつけ医から予約をとってもらい紹介状を持って受診して頂くと診療がスムーズに進みます。
今までの病歴や治療内容もよく分かり、余計な検査も不要なので専門的な治療に専念出来ます。
待ち時間が少ないことや、初診時選定療養費がかからないのも患者さんにとっては大きなメリットですね。
変形性関節症の病期分類
変形性膝関節症は多くの場合、数年から数十年単位の長い年月をかけて進行していきます。
一般的に変形性膝関節症は初期(軽症)、中期(中等症)、末期(重症)に分類されます。
軟骨のすり減りが少なく、骨の変形は軽度。
症状は膝のこわばりや違和感がメイン、ときどき痛みが出る程度。
軟骨のすり減りが進み、骨の変形が強まる。
膝の曲げ伸ばしや階段昇降が辛くなり、膝が慢性的に痛むようになる。
軟骨がほとんどすり減り、骨と骨が直接ぶつかる。
外見的にも変形が目立つようになる。
膝痛や可動域制限のため、日常生活に強い支障をきたす。
自分の症状から病期(進行の程度)を知っておくことは必要ですが、同じ変形性膝関節症でも、症状の現れ方や進み方は人によって異なります。
レントゲンで変形が少ないのに症状が強い方がいる一方、変形は強いのに症状が軽い方もいます。
我々整形外科医は患者さんの病期を症状ではなく画像(レントゲン)で分類するのが一般的ですが、実際に治療する上で大切なのは、画像ではなく症状であることを覚えておいて下さい。
変形性膝関節症の治療は長期間に及びます。そのため患者さん自身が「自分の病気は自分で治す」という主体的な意識を持つことがとても大切です。
変形性関節症の症状
変形性膝関節症では主に、膝の痛みや変形、可動域制限により日常生活に支障を来たします。
膝の痛み
軟骨が減ったから痛みが出る、という話をよく耳にしますが実際は少し違います。
軟骨自体には痛みを感じる神経がありません。
変形性膝関節症ではなぜ、痛みを感じるのでしょうか?
膝関節にはクッションの役割を担う関節軟骨や半月板という組織があり、加齢とともに弾力性が失われ、傷つくことで摩耗粉が生じます。
摩耗粉が関節包の内側にある滑膜を刺激して炎症(滑膜炎)を起こします。
滑膜炎が起こると炎症性サイトカインという物質が分泌されて痛みが出現します。
滑膜には関節液を分泌する働きもあるので、滑膜炎が起きると膝に水が溜まります。
膝関節には膝を滑らかに動かすため、軟骨に栄養を送るために必ず関節液が存在していますが、正常ではその量は3ml程度です。
滑膜炎が起こり関節液が増えると、関節包が膨張するため膝の痛みや張り感が現れます。
変形性膝関節症では滑膜炎に伴い痛みが生じたり、水が溜まったりするメカニズムを説明してきました。
前の病期分類の項目でも少し触れましたが、ここからは変形性膝関節症で起こる膝の痛みに関し、具体的に見ていきましょう。
まず初期には膝関節がこわばる感じや、座ったあとの立ち上がり動作や歩き始めの痛みを自覚する事が多いです。
いったん歩き始めると膝の痛みは軽快しますが、長時間歩いていると再び痛みが強くなります。
中期になってくると、歩行時や階段昇降時などにも持続的な痛みが生じてきます。
痛みの頻度や持続時間も長くなってきます。
歩行時に膝関節にかかる荷重は、一般的に体重の2〜3倍、階段昇降では体重の約5倍と言われています。
さらに進行し末期になると、安静時にも強い痛みを感じるようになってきます。
変形や可動域制限も相まって日常生活に強い支障をきたすようになります。
患者さんから「膝の水を抜くとクセになる」という話を聞きます。
膝に水が溜まる原因は、前述の通り軟骨や半月板の摩耗粉が滑膜を刺激し滑膜炎を起こすことによります。
溜まった関節液には多くの摩耗粉や炎症性サイトカインが存在するため、水を抜くことは効果的です。
しかし炎症が治るまでには時間を要するため、水を抜いてもすぐに溜まってしまうことも多く、「水を抜くとクセになる」と考えられます。
水を抜くから溜まるのではなく、溜まるから抜く必要があるのです。
水を溜めにくくするためには炎症を抑える事が必要です。そのために適切な運動療法、抗炎症薬の使用やヒアルロン酸注射などが大切です。
雨が降ったり(湿度が上がる)、台風が来ると(気圧が低くなる)、膝の痛みがひどくなることがあります。これを気象病と言います。
気象病が起こる原因は十分に解明されていませんが、気象の変化で自律神経が乱れることが影響するのではないかと考えられています。
気象病の予防には規則正しい生活を心がけ、自律神経のバランスを整える事が大切です。
膝の変形
関節軟骨や半月板は加齢とともに弾力性が失われて硬くなり、すり減ったり細かい傷ができていきます。
加齢や運動不足により筋力が衰えたり、肥満や長時間の立ち仕事などで膝への負荷が増大すると軟骨のすり減りが加速し、クッションの役割が減少する事で膝の変形が進行します。
多くの方は内側の軟骨がすり減りやすくO脚となりますが、約5%の方は外側の軟骨がすり減ってX脚となります。
X脚の頻度は少ないですが、関節リウマチや股関節疾患、円板状半月板や外傷後などに続発する事があります。
可動域制限
可動域とは関節が動く範囲のことです。
Range of Motionの頭文字をとってROMと表現されたりもします。
膝を伸ばすことを「伸展」、曲げることを「屈曲」と言います。
変形性膝関節症では膝周囲の筋肉や靱帯、関節包などの組織が縮んで硬くなってしまい、膝が伸び切らなくなったり、正座ができなくなってしまいます。
膝の痛みのため安静にして膝を使わない生活を続けると、可動域はますます狭くなってしまいます。
- 階段昇降 95°
- 椅子からの立ち上がり 105°
- 自転車漕ぎ 110°
- 正座 150°
一度固くなった関節を柔らかくすることは非常に大変です。
しっかりとリハビリを行い柔軟性を維持することが大切です。
具体的なリハビリ方法に関しては、運動療法の項で解説します。
まとめ
変形性膝関節症は関節軟骨が傷ついて発症し、その摩耗粉が滑膜炎を誘発することで痛みや水腫(関節に関節液が溜まること)を引き起こします。
その主な原因は加齢や肥満です。
今後高齢化社会が進むことで、患者数はさらに増加すると考えられています。
主な症状として膝の痛みや変形、可動域制限が挙げられますが、進行すると日常生活にも支障を来たすようになります。
次回からは変形性膝関節症の治療に焦点を当てて解説していきます。