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【膝・スポーツDrが解説】TKAの術前準備 ②膝OAに対する術式選択

大学病院で膝関節・スポーツ外傷を専門に扱う筆者が、これからTKAを始める整形外科医向けに、人工膝関節置換術(TKA)を行うための準備や手術のコツを解説します。

TKAの術前準備には
 ・ 診断
 ・ 術式選択
 ・ プランニング
 ・ インプラント選択
 ・ 臨床評価
などが含まれます。

前回は診断にFocusを当てて、必要なレントゲン撮影や他関節疾患との関連について記載しました。

【膝・スポーツDrが解説】TKAの術前準備① 膝OAの診断膝・スポーツ専門医が、TKAの術前準備として、Xpの撮影方法や膝OAの診断について詳しく解説します。...



今回は膝OAに対する手術術式の選択について、特にHTO・UKA・TKAについて比較検討します。

膝OAに対する手術方法

代表的な膝OAに対する手術術式には
 ・関節鏡手術
 ・膝周囲骨切り術
 ・人工関節置換術
があります。

それぞれに一長一短があり、患者の希望や病状に応じて適切な術式を検討しなくてはなりません。

膝周囲骨切り術の中で最も行われているOWHTOと、TKA・UKAを、長期成績や患者の病状(活動性や変形の程度など)の視点から考えてみます。

長期成績について

TKA

一般的に人工関節の耐用年数は20年程度と言われており、TKAを勧める年齢が60歳以上と考えられている所以です。

これは再置換をエンドポイントとしたインプラント生存率が、10年で95%以上、20年で90%以上という研究によるものです。

実際は20年で人工関節がダメになることは少なく、もちろん正確な骨切りやインプラント設置、セメント手技が大前提ですが、逆に言うと90%以上の患者で20年以上再置換は不要であり、長期成績という観点からはTKAはとても優れた手術です。

確かに活動性が高い若年者に対するTKAは、将来再置換が必要となるリスクが高くなることが予想され、積極的に行われることは少ないと思います。

しかし関節の変形が高度であり、他の治療法と比較してTKAが最も適していると判断された場合には適応となります。

TKAの長期成績は良好
 90%以上の患者で、20年以上再置換が不要

一般的にTKAの適応は60歳以上と考えられているが、患者にとってTKAがベストな治療であれば、若年者に対して行うこともある

UKA

UKAの長期成績も向上しており、Mobile型・Fix型UKAともに、インプラント生存率は15年で95%前後という報告もあります。

しかしレジストリーデータでは、非置換側コンパートメント(主に外側)のOA変化進行、インプラント周囲の骨折や緩みなどにより、TKAよりもUKAの方が再置換率が高いとされています。

UKAはTKAと比べて侵襲が少なく、機能回復も早く、メリットが大きい術式ではありますが、手術適応を遵守し、正確な手術手技が求められます。

UKAの適応や手術手技については、今後解説予定です。

UKAの長期成績も向上しているが、TKAよりも再置換率は高いとされている

HTO

HTOについては、長期成績のエンドポイントはTKAです。

HTOについては術前の変形度合いや、術後のアライメントにばらつきが多いため、その長期成績も10年で70〜90%と比較的幅を持って報告されています。

高齢であれば骨粗鬆症も併存しており術中のヒンジ骨折リスクも高くなるでしょうし、変形が強いほど長期成績が劣ることも事実です。

しかしHTOは関節温存手術であり、術後に重労働やスポーツも可能な、とても優れた手術です。

高齢だからHTOはムリ、変形が強いからHTOはムリ、のように年齢や変形だけHTOの適応を考えるのではなく、患者の活動性や生活様式の希望など、総合的に判断して決定する必要があります。

HTOの長期成績はバラツキが大きいが、10年の中期成績は比較的良好。

人工関節置換術と違い、関節温存手術であり、術後に重労働やスポーツも可能な優れた術式である。

患者の生活様式や活動性、年齢や変形の程度などを総合的に判断して術式を決定する必要がある。

患者の活動性について

TKA・UKA

人工関節にスポーツは適さないと言われてきましたが、TKAやUKA後にスポーツを楽しむ患者が増えています。

しかしその種目はlow impact sportsが大部分です。

ウォーキングや水泳、ゴルフなどは問題ないとされています。

しかし衝撃が加わるようなスポーツは、人工関節のゆるみに繋がる可能性がり、避ける方が良いでしょう。

TKA後にどの運動やスポーツができるか、については1999年にアメリカのknee societyの報告が有名なので、紹介しておきます。

Healy WL, et al : Am J Sports Med. 2001

労働については力仕事やしゃがみ込みを必要とする作業は、TKA・UKA後には不向きです。

TKA・UKA後のスポーツ活動はlow impactな競技が勧められる。

力仕事やしゃがみ込み動作を必要とする作業には不向きである。

HTO

人工関節置換術と異なり、前述のようにHTOは関節温存手術のため、手術後に重労働やスポーツが可能で、活動性が高い患者には特に推奨される手術です。

内固定剤を抜去した後はインプラント破損のリスクもなく、活動を制限する必要はありません。

高齢者でスポーツを続けたい患者や、農業や林業、漁業など一次産業に従事する患者では、高齢であったり、変形が強くても、HTOを選択することもあります。

HTOは活動性が高い患者に特に勧められる術式である。

手術の適応について

膝関節の変形がどんなに強くても、痛みの程度が許容範囲内で、日常生活にも大きな支障がなければ、保存療法の継続と手術を十分に比較検討する必要があります。

手術適応の大前提
 保存療法抵抗性の膝関節痛があり、ADLが低下している患者


前述の年齢や活動性を考慮せず、あくまで画像上のTKAの適応は
 ・ 大腿脛骨関節のいずれかのコンパートメントで、軟骨下骨が接触している 
 ・ 他のコンパートメントにも中等度以上の軟骨変性所見がある
ことが条件です。

単一コンパートメントのみの障害では、UKAやHTOも考慮する必要があります。

もちろん画像だけで術式の適応を決めるわけではなく、可動域や靭帯機能、下肢アライメントなどを総合的に評価して決定する必要があります。

詳細なUKAやHTOの手術適応については、別記事で解説します。

まとめ

今回はTKAの術前準備として、代表的な手術術式である、人工関節置換術(TKA・UKA)と膝周囲骨切り術(HTO)を比較しました。

膝関節専門を志すのであれば、治療の幅も広がるので、どれも習得したい技術です。

それぞれの手術にメリット・デメリットがあり、その適応や長期成績を知っておくのは大切です。

膝OAを見たら、手術は全例TKA、というのは少し寂しい気もします。

次回は具体的なTKAのプランニングについて解説します。