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【整形外科専門医が解説】膝周囲の解剖

今後膝の病気やスポーツ外傷などを学んでいく上で、最低限必要になる解剖を解説します。

実際の診察を受ける際も、解剖の知識が有るのと無いのでは、説明の理解度が変わってきます。

診察室でよく見かける右膝の模型を見ながら順に学んでいきましょう。

膝周囲には
 大腿骨・脛骨(けいこつ)・腓骨(ひこつ)・膝蓋骨(しつがいこつ)
の4つの骨があります。

右膝を前方から見た図
右膝を外側から見た図


膝から下には脛骨・腓骨という骨があり
 脛骨は内側にある太い骨
 腓骨は外側にある細い骨
と覚えておいて下さい。

膝の前方には膝蓋骨(いわゆる膝のお皿)があります。

軟骨・半月板

関節軟骨は、それぞれの骨が接触し合う部分の表面を覆っている、厚さ3〜4mmの滑らかで弾力性に富んだ組織です(図の薄い緑色部分が関節軟骨です)。

骨と骨が直接ぶつかり合わないように、衝撃を吸収するクッションの役割を果たしていて、膝の動きを滑らかにしています。

成人の関節軟骨には神経や血管がなく、関節液を介して新陳代謝を行なっています。

さらに大腿骨と脛骨の隙間には、内側と外側に「Cの形」をした半月板が1つずつあります。

半月板は関節接触面の安定性を増やし、関節軟骨と同様にクッションの機能を持ちます。

大腿脛骨関節を前方から見た図
脛骨を上方から見た図

半月板は部位別に「◯節」「◯根」のように名称がついています。

下図は右膝・内側半月板の例ですが、外側半月板も同様です。

医師からMRIの結果を聞くときに参考になりますので、覚えておいて下さい。

関節軟骨と半月板は、衝撃を吸収するクッションとしての役割がある

コラム:関節軟骨はスゴイ!

関節軟骨は大部分(約70〜80%)が水分で、残りはコラーゲンやプロテオグリカンなどで構成されています。

関節軟骨の表面はとてもツルツルしていて、その摩擦は氷同士よりもはるかに少ないことが知られています。

関節包・滑膜

膝関節は関節包(かんせつほう)という袋で包まれ、その内側には滑膜(かつまく)という組織があります。

滑膜は関節液の分泌と回収を行なっています。

関節液には関節の動きをスムーズにする潤滑油としての役割に加えて、関節軟骨に水分や酸素、栄養素などを運ぶという大きな役割があります。

滑膜に炎症が起こると、関節液が過剰に分泌され、膝に水が溜まります。

コラム:関節軟骨の新陳代謝

関節軟骨には血管がないため、その新陳代謝には関節液が必要です。

膝を動かすことで関節軟骨に圧力が加わると、関節包の中の関節液が関節軟骨に浸透し、水分や酸素、栄養素などが補給されます。

動かずにじっとしたままでは関節軟骨に圧力が加わらず、関節液をうまく吸収できません。

そのため関節軟骨を健康な状態に保つためには、適度な膝の運動が欠かせないのです。

靱帯・筋肉

靱帯と筋肉は、膝関節を構成する骨をしっかりと固定し、スムーズな動作ができるように関節をコントロールしています。

膝周囲には多くの靱帯と筋肉が存在しますが、ここでは代表的な物を取り上げます。

靱帯は骨と骨をつなぐ強靭な組織で、筋肉と連動して膝の動きを支えています。

前後や回旋(回す動き)の動きを支えるのが十字靱帯、左右の動きを支えるのが側副靱帯です。

膝を曲げた状態で、前方から見た図

膝周囲の代表的な筋肉としては
 膝を伸ばす筋肉:膝の前面にある大腿四頭筋と膝蓋腱
 膝を曲げる筋肉:膝の後面にあるハムストリング
を覚えておきましょう。

神経・血管

膝周囲には、多くの神経・血管が走っています。

今後膝の手術に関しても投稿を予定していますが、ここでは手術の際に損傷しやすい神経の代表格である
 伏在(ふくざい)神経 膝蓋下枝(しつがいかし)
 腓骨神経
の2つについて説明します。

伏在神経膝蓋下枝

右膝を前方から見た図

               引用:Visible Body

伏在神経膝蓋下枝は、膝蓋骨(お皿の骨)の下に向かって伏在神経から枝分かれした神経で、純粋な感覚のみの神経です(運動には関与しない)。

手術の際に膝前面の皮膚を切開すると損傷しやすく、感覚障害を起こす可能性がある神経です。

腓骨神経

膝関節を外側から見た図

            引用:Visible Body

腓骨神経は腓骨頭を後方から前方に回り込むように走る神経です。

手術で直接腓骨神経を損傷してしまう頻度は少ないですが
 腓骨頭の圧迫(手術後の安静や、ギプス・シーネなどの固定で)
 X脚を矯正するような手術
などで、腓骨神経が傷ついてしまうことがあります。

腓骨神経は伏在神経膝蓋下枝と異なり、感覚だけでなく運動にも関与しています。

そのため腓骨神経が傷つくと、しびれなどの感覚障害だけでなく、足首や足の指が動かしにくいといった運動障害も出現してしまうので注意が必要です。

膝後方の神経・血管

膝を前から見た図

       引用:Visible Body
膝を後ろから見た図

       引用:Visible Body

膝を前から見た場合と後ろから見た場合を比較してみましょう。

赤が動脈、青が静脈、黄が神経です。
膝の周囲には多くの神経・血管が走行していますが、特に膝の後方には太い神経・血管が多いのが分かります。

手術で膝の後ろ側を触る可能性がある場合は、これらの構造物に注意が必要です。
「太い神経や血管は、膝の後ろに走っている」ことを覚えておきましょう。

まとめ

今後膝・スポーツ外傷を学んでいくために、最低限必要となる解剖を解説してきました。

次回からは膝疾患の代表である変形性膝関節症について、複数回に渡って解説していきます。