膝蓋骨脱臼は膝のお皿が脱臼してしまう疾患です。
外傷やスポーツで起こりますが、脱臼素因(もともと脱臼しやすい解剖学的な特徴)を有する患者では軽微な動きでも起こります。
基本的に膝蓋骨は外側に脱臼します。
膝蓋骨脱臼の分類
膝蓋骨脱臼は脱臼の形態により大きく4つに分類されます。
・ 外傷性脱臼
・ 反復性脱臼 → 外傷性脱臼の後、脱臼を繰り返すようになったもの
・ 習慣性脱臼 → 外傷の既往がなく膝の一定肢位(多くは屈曲位)で常に脱臼するもの
・ 恒久性脱臼 → 常に膝蓋骨が脱臼しているもの
膝蓋骨脱臼の大部分は、外傷性脱臼と反復性脱臼です。
膝蓋骨脱臼は
外傷性/反復性/習慣性/恒久性
の4つに分類され、大部分は外傷性と反復性である。
脱臼素因(脱臼の解剖学的な原因)について
外傷性脱臼は比較的強い力が膝に加わって脱臼を起こしますが、中には脱臼素因を持った方もいます。
脱臼素因とはもともと脱臼しやすい解剖学的な特徴を指し、我々整形外科医は診察や各種画像から脱臼素因を探します。
脱臼素因があると再脱臼の可能性が高くなりますし、手術方法にも影響を与えるので、とても大切なプロセスです。
最も代表的な脱臼素因は、膝蓋骨や大腿骨膝蓋骨溝の形態異常です。
下図のように、膝蓋骨は大腿骨の溝にハマっています。
膝蓋骨の下面が平らであったり、大腿骨の溝が浅ければ脱臼しやすいのは想像できると思います。
その他にも全身性関節弛緩(体が柔らかい)、X脚、膝蓋骨の位置が高い、膝蓋腱の脛骨付着部が外側、など様々な脱臼素因が存在します。
専門的な内容なので詳細は割愛しますが、膝蓋骨脱臼を起こす要因は患者さんによって異なるので、脱臼素因を十分に検討して治療方針を立てることが大切になります。
膝蓋骨脱臼の診断
症状
脱臼を起こした時、多くはガクッと膝崩れが起き転倒します。
初回の脱臼では激痛とともに転倒し歩行困難となることが多く、関節内に血も溜まります。
脱臼回数が多くなるにつれ脱臼後の症状は初回より軽度になります。
脱臼整復後は膝蓋骨の不安定性による不安感が主な症状となります。
診察所見
膝蓋骨が脱臼した状態であれば、外見上からも診断は容易ですが、診察時すでに脱臼が整復されていることも多々あります。
受傷直後の急性期は、痛みのため十分な診察を行えず、膝崩れ・歩行困難・関節血症などから前十字靭帯損傷や半月板損傷などと間違われることもあります。
代表的な診察上の所見は
関節血症(注射器で関節液を穿刺すると血性の関節液が排出されます)
脱臼を誘発する動きで、強い恐怖感
膝の内側に痛みや腫れの訴え
などが挙げられます。
画像所見
撮影する画像はレントゲン、CT、MRIの3種類です。
レントゲンで膝蓋骨脱臼を診断するだけではなく、合併損傷のチェック(骨折や軟骨損傷など)や、脱臼素因の有無などを調べるためにCTやMRIも必要です
まずレントゲンです。
左が正常、右が脱臼した状態ですが、一目瞭然ですね。
次はCTです。CTではレントゲンよりも骨を詳細に観察することが可能です。
膝蓋骨脱臼を整復した後のCTですが、脱臼に伴って剥がれた、膝蓋骨の骨・軟骨片が関節内に浮遊しているのが観察できます。
最後はMRIです。MRIでは骨の内部や、骨以外の組織をよく描出してくれます。
骨が衝突した形跡(骨折や骨挫傷)、貯留した関節液や血液、断裂した内側膝蓋大腿靱帯(後述します)などを観察するために撮影します。
膝蓋骨脱臼の治療
今回は主に外傷性膝蓋骨脱臼と反復性膝蓋骨脱臼について、治療方針や治療方法を解説します。
治療方針
外傷性膝蓋骨脱臼に対する治療方法の選択は、いまだに結論が出ていません。
保存療法と手術に大別されますが、そのどちらの方法がより良いかは明らかになっていないのです。
一般的に初回の外傷性膝蓋骨脱臼には保存療法が選択されることが多いですが、再脱臼の割合は40%、不安定感が残存する割合は60%という報告もあります。
そのため近年では、初回脱臼に対しても積極的に手術を施行することで、良好な成績も散見されるようになりました。
初回脱臼の中で手術の適応となり得るのは、
① 脱臼に伴なって大きく軟骨や骨が剥がれ、関節内遊離体となっている
② 膝蓋骨内側を支持する組織に、大きな損傷がある
② 脱臼素因が強い症例
などが挙げられます。
膝蓋骨脱臼に対する保存療法
整復された外傷性膝蓋骨脱臼に対する初期治療は、その他のスポーツ外傷に対する初期治療と変わりません。
まずは痛みの軽減を図り、腫れや炎症を抑えるためにRICE処置や、必要に応じて消炎鎮痛薬の投与を行います。
決められた固定期間はありませんが、2〜3週間程度の固定を行う報告が比較的多いです。
2〜3週間の安静で痛みや腫れ、脱臼への恐怖感が軽減してきたら、膝蓋骨脱臼用の装具を装着し、積極的なリハビリを開始します。
膝蓋骨脱臼では一般的に、膝蓋骨が膝の外側に脱臼する形態をとります。
膝蓋骨脱臼用の装具は、膝蓋骨に接触する外側部分に土手のような構造物が付いていて、膝蓋骨が外側に移動するのを防止する構造になっています。
膝関節を固定する装具とは異なり、膝蓋骨が外側に移動するのを制動しつつ、膝関節の運動を行うために使用する装具です。
膝蓋骨脱臼に対するリハビリは主に、可動域訓練・歩行訓練・筋力トレーニングです。
①可動域訓練
脱臼直後は痛みや腫れを改善させるため、固定を行います。
膝蓋骨脱臼用の装具を装着した後は、積極的に可動域訓練を行い、受傷前と同程度までの可動域獲得を目指します。
②歩行訓練
膝を伸ばした状態での歩行は、膝蓋骨には大きな負担が加わらないため、痛みが落ち着いたら特に制限なく歩行を開始して問題ありません。
③筋力トレーニング
筋力低下を予防するため、固定期間中も疼痛の範囲内で筋力トレーニングを行うことが大切です。
まずは膝を固定したまま行える代表的な大腿四頭筋のトレーニングです。
膝蓋骨脱臼では膝蓋骨は外側に脱臼するので、膝蓋骨を内側に引っ張る筋肉(内側広筋)の筋力アップは脱臼予防にとても大切です。
内側広筋のトレーニング方法を2つ紹介します。
筋力トレーニングを行う際は、収縮させたい筋肉をしっかり意識しながら行いましょう。
膝蓋骨脱臼に対する手術療法
前述の通り、膝蓋骨脱臼に対する治療方針は、未だ定まっていません。
ここでは代表的な手術適応および手術方法に関して解説します。
初回の外傷性膝蓋骨脱臼に対する手術適応は、脱臼した際に軟骨損傷や骨折が生じ、関節内に遊離してしまった場合です。
初回の外傷性膝蓋骨脱臼に対し保存加療を行うも、反復性脱臼となってしまった場合、再脱臼は来さないまでも日常生活やスポーツで不安定感が出現する場合も手術適応となります。
ここでは外傷性や反復性膝蓋骨脱臼に対する手術方法の代表で最も多く行われている、内側膝蓋大腿靭帯再建術に関して簡単に紹介します。
脱臼素因の有無や程度は人それぞれであるため、膝蓋骨脱臼の病態は患者さんによって大きく異なります。
そのため内側膝蓋大腿靱帯再建術と他の術式を組み合わせる事が必要になることもあります。
膝蓋骨が外側に行かないように制動する大切な構造として、1990年代前半に重要性が認識された靱帯です。
Medial Patella Femoral Ligamentの頭文字をとってMPFLと略されます。
2000年以降、MPFL再建術の良好な成績が報告され、今日では反復性膝蓋骨脱臼に対する手術の第一選択となっています。
内側膝蓋大腿靱帯は、膝蓋骨と大腿骨に付着部を持つ靱帯です。
それぞれの付着部に骨孔を開け、骨孔に移植腱を通し、膝蓋骨が良好な整復位となるように移植腱の長さを調整した状態で固定します。
移植腱には、前十字靭帯再建術と同様に、半腱様筋腱を用いることが多いです。
手術後は1〜2週間程度膝を固定した後、可動域訓練や荷重を開始し、スポーツ復帰には半年程度を要します。
手術方法やリハビリプログラムなどは病院や担当医によっても異なるので、手術を受けられる際は十分に説明を受け、指示に従ってください。
まとめ
今回は膝蓋骨脱臼について、分類・診断・治療方法などを解説しました。
多くの症例は外傷性膝蓋骨脱臼および、それに続く反復性膝蓋骨脱臼です。
初回脱臼時に骨軟骨損傷を併発した場合や、脱臼整復後に再脱臼を来たしたり、不安感が残存した場合などは手術を要します。
代表的な手術方法は、膝蓋骨の制動を担う主要な組織である内側膝蓋大腿靱帯を再建する術式で、良好な成績が報告されています。
膝蓋骨脱臼は様々な脱臼素因の存在下に起こるため、全ての患者さんに対し標準化した術式を当てはめることが出来ず、個々の患者さんの病態を把握した上で、手術の術式を選択する必要があります。
特定の膝の角度で常に膝蓋骨が脱臼してしまう習慣性膝蓋骨脱臼や、膝の角度に関わらず常に膝蓋骨が脱臼している恒久性膝蓋骨脱臼では、脱臼素因が特に強い特徴があり、特別な治療を要します。
膝蓋骨脱臼を起こしてしまった場合は、担当の先生と治療方針を相談し、痛みや不安定性を残さない様にしてください。