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【膝・スポーツDrが解説】半月板損傷の治療⑤ 鏡視下半月板切除術

大学病院で整形外科専門医として膝関節・スポーツ外傷を専門に扱う筆者が、半月板損傷に対する基本事項から手術手技、リハビリまで網羅的に解説します。

第5回として鏡視下半月板切除術について説明します。

半月板切除術の適応

半月板損傷に対する治療目的は、損傷した半月板に起因する症状の緩和と、半月板機能の改善です。

手術による治療は切除術と縫合術に分かれますが、その治療目的は異なります。

縫合術を行えば症状・機能ともに改善することができますが、切除術では症状は緩和できても機能は犠牲とならざるを得ません。

半月板切除術では、症状は緩和できても、機能は犠牲になる


近年新しい術式やデバイスの開発、治癒促進の方法が多数報告され、損傷した半月板を温存する手術は適応を拡大する傾向にあります。

そのため、一般的な(教科書的な?)半月板切除術の適応は、縫合術が困難あるいは治癒が見込めない半月板損傷とされています

では半月板損傷に対し鏡視下手術を受ける患者の大部分は、縫合術を受けているのでしょうか?

縫合術の件数は少しずつ増加傾向ですが、まだ切除術70%・縫合術30%程度の割合で、切除術が多く行われているのが実情です。

その理由は縫合術では、手術手技の煩雑さ、縫合に用いるデバイスやインプラントの金額、手術時間の延長、再断裂や症状残存の可能性、神経血管束損傷の危険性、別皮切が必要になる可能性、後療法に時間がかかること、などが挙げられます。

半月板機能の重要性が再認識されるにつれ、学会でも「Save the Meniscus」が叫ばれていますが、無理な縫合術は痛みを持続させ再手術の可能性を高くするのも事実です。

近年半月板機能の重要性が再認識されており、半月板縫合術が増加傾向

しかしまだまだ切除術が多く行われているのが実情


したがって身体所見(年齢、身長、下肢アライメントなど)、活動性(スポーツや仕事の内容)、半月板の断裂形態などを総合的に勘案し、患者に切除術のメリット・デメリットを説明した上で、治療方針を決定することが大切です。

半月板切除術の実際

半月板切除術の基本は、症状の原因となっている部位を「必要最小限」切除することです。

実際の切除部位は症例により様々であり、鏡視所見に応じて判断する必要があります。

ここでは、視野確保の方法、処置の際の注意点、後療法の3点について、順に解説します。

視野確保

ポータル作成のコツ

鏡視のための代表的なポータルは、前外側ポータルと前内側ポータルです。
(それぞれ外側膝蓋下ポータル、内側膝蓋下ポータルと呼ぶこともあります)

ポータルの位置がズレると、その後の関節鏡操作が非常にやりずらくなってしまいます。

これらのポータルを適切に作成することが、手術のスムーズな進行において極めて重要です。

ここでは前外側ポータルの位置について、コツをお伝えします。

前内側ポータルは、膝蓋腱に対し前外側ポータルとおおよそ対称に作成すれば問題ありませんが、慣れるまではカテラン針で切開部位を確認するのが良いでしょう。

ポータルの高さ

一般的にポータルは「低い」よりも「高い」方が操作しやすい事を覚えておきましょう。

ポータルが低いと半月板を傷つけるリスクも高くなってしまいます。

具体的なポータルの高さは、大腿骨、脛骨、膝蓋腱により囲まれた部分を母指で押した時、最も陥凹する部分(fossa)より1cm程度近位が良いでしょう。

膝蓋骨下端レベルに設定することもありますが、膝蓋骨低位の症例もあるので注意しましょう。

関節鏡初心者ほど、ポータルの位置が低いことが多いです。

ポータルと膝蓋腱の位置関係

教科書には「膝蓋腱外縁」に作成する、と書いてありますが、膝蓋腱に近過ぎると膝蓋下脂肪体を貫通し脂肪が迷入したり、膝蓋腱・半月板・顆間隆起などと干渉し操作性が悪くなってしまいます。

実際の手術では、膝蓋腱外縁から少し離して作成する方が、手術操作がしやすい事を覚えておきましょう。

関節内を鏡視する際は、病変だけでなく、関節内を満遍なく観察することが大切です。

いつも決まった順序で、関節内を全て観察し、最後に病変を処置する癖をつけましょう。

内側コンパートメントの視野確保

内側半月板処置の際は、十分に関節裂隙を開大させる必要があります。

駆血帯の外側に側板を置いておくと、助手が外反をかけやすくなります。
(慣れれば術者1人でも外反をかけながら手術を行うことも可能です。)

内側半月板後節を鏡視する際は、外反を強制し、少し屈曲位(20°程度)にすると視野が広く得られます。

膝を外反させようとすると、大腿骨が内旋し膝が屈曲しやすくなってしまうので注意が必要です。

狭い視野で手術を行うと、十分な観察・処置が出来ないのはもちろん、軟骨など他の関節構造体を傷つけてしまうので、視野確保はとても大切です。

徒手的な外反強制でも十分に開大出来ない場合には、pie crustingも有効です。

                  整形外科Surgical Technique 2021より引用
pie crustingについて

良好な視野を獲得し、関節内操作を容易にするために、身につけておきたい手技の一つです。

具体的には内側側副靱帯(MCL)の後方1/3と後斜靱帯(POL)を18G針で数箇所穿通させ、内側関節裂隙を開大させます。

18G針の皮膚への刺入部は1箇所で、MCLやPOLを穿刺後に皮下まで針を抜いて、再度方向を変えて穿刺することを4〜5回程度繰り返します。

18G針を内側半月板下面に出すのが理想ですが、半月板実質や軟骨を傷つけないように注意が必要です。

外側コンパートメントの視野確保

一般的に外側の処置はFigure 4 positionで行います。

関節が十分に開かない場合は、助手に膝を押してもらったり、足部を挙上してもらうと外側関節裂隙が開大し視野が良くなります。

外側半月板前節を処置する場合は、下垂位で前内側ポータルから鏡視するのオススメです。

処置の際の注意点

切除範囲は症例に応じてケースバイケースですが、半月板切除術を行う際は必要最小限の範囲にとどめる事を常に念頭に置く必要があります。

鉗子やシェーバーを用いて少しずつ切除を進め、全体のバランスをとるように心がけ、切除部が周囲半月板と段差にならないように注意しましょう。

病院によっては高周波電気装置(RF)を利用することもあると思います。

これは変性した半月板辺縁を安定化させる目的で利用します。

使用する際は1点に集中して熱が加わらないように、半月板表面から少し離れた部位で表面を舐めるように動かす必要があります。

また長時間の利用で関節内の温度上昇を来たすと、半月板や軟骨の壊死を引き起こすことがあるため注意が必要です。

最終確認時には
・切除すべき半月板の残りはないか?
・周囲半月板と段差が生じていないか?
・医原的な半月板損傷はないか?
などを確認しましょう。

後療法

基本的には術翌日から痛みに応じて、可動域訓練と歩行訓練(全荷重でOK)を開始します。

少しずつ活動量を増やしていきますが、術後2ヶ月より前に活動量を上げすぎると関節水腫や軟骨損傷が起こるという報告もあり、慎重に経過を診る必要があります。

スポーツ復帰には3ヶ月程度を要することが多いです。

半月板切除術後の経過

半月板を切除すると、非手術側と比べて有意に変形性変化が出現することが分かっていますが、臨床症状とは関連しないこともあります。

現時点で言われている半月板切除後の二次性変形性関節症発症のメカニズムは以下のようにまとめられます。

半月板切除後の変形性変化は、半月板機能低下による関節負荷の増加や動揺製の出現に対する膝関節の反応性変化として起こります。

そしてその後の経過で一次性変形性膝関節症のリスク因子の影響が大きくなるにつれて、複数のリスク因子を有する例では有症状に至ると考えられています。

まとめ

半月板切除術は鏡視下半月板手術の基本であり、手技に習熟しておく必要があります。

しかし近年半月板機能の重要性が再認識され、「Save the Meniscus」が叫ばれており、半月板縫合術の適応が拡大しています。

半月板切除を行う際は、症状の原因となる部位を、必要最小限切除するように心がけましょう。