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【膝・スポーツDrが解説】TKAの術前準備 ③術前プランニング

大学病院で膝関節・スポーツ外傷を専門に扱う筆者が、これからTKAを始める整形外科医向けに、人工膝関節置換術(TKA)を行うための準備や手術のコツを解説します。

TKAの術前準備には
 ・ 診断
 ・ 術式選択
 ・ プランニング
 ・ インプラント選択
 ・ 臨床評価
などが含まれます。

今回は術前プランニングとして、必ず知っておきたい正しいアライメントとインプラントの設置について解説します。

TKAでの目標アライメント

冠状面のアライメント

大腿骨も脛骨も機能軸に対し、垂直にコンポーネントを設置します。

それによってTKA後は、股関節の中心と足関節の中心を結ぶ下肢機能軸が、膝関節の中央を通ることになります。

TKAでは冠状面で下肢機能軸が膝関節中心を通ることを目標にする

コラム:kinematic alignmentについて

kinematic alignmentという言葉を聞いたことがあると思います。

TKA術後の下肢機能軸が膝関節中央を通るneutral alignmentではなく、kinamatic alignmnetとは患者毎の術前のアライメントを再現する物です。

自然な関節面の傾きの再現を目標としており、結果的に軽度のO脚(多くの場合脛骨関節面は平均3°内方に傾斜)が再現され、荷重時には地面と関節面が並行になるという利点があります。

引用:二木康夫.関節外科.2016

kinematic alignmentの根底には膝の屈伸軸を再現するということがあります。

膝関節の屈伸に際して円柱状の大腿骨顆部は、平坦な脛骨関節面の上を転がります。

この時大腿骨顆部は一定の軸(MCLとLCL付着部を結んだ線)を中心に回転運動するので、大腿骨インプラントの屈伸軸をこの軸と一致させることにより、自然で違和感のない屈伸が可能になります。

                引用:Yin L, et al. PLoS ONE. 2015

患者毎のOA発症前の膝を再現することができれば、より正常な膝関節運動が再現でき、より高度な動作が可能となる可能性があり、実際に少しずつデータも蓄積されてきています。

kinematic alignmentは学会や勉強会で良く耳にすると思いますが、neutral alignmentは40年以上の古い歴史があり、現在でもゴールドスタンダードです。

これからTKAを始める読者の皆さんは、まずは正確な術前計画と手術手技でneutral alignmentを目標にしましょう。

矢状面のアライメント

大腿骨の矢状面アライメント

大腿骨は遠位解剖軸に対し垂直な骨切りが推奨されています。

大腿骨は前弯しているため、解剖軸は機能軸より約3°屈曲位にあることが知られています。

機能軸に対して垂直に骨切りすると、遠位解剖軸に対しては伸展位で骨切りを行うことになり、大腿骨前方のノッチ形成や、大腿骨コンポーネントサイズが大きく表示される可能性が高くなってしまいます。


一方大腿骨遠位部を過度に屈曲位で骨切りしてしまうと、術後の臨床スコアが低下したり、再置換率が高まることが報告されています。

PSでは大腿骨インプラントが過度な屈曲位設置になると、ポストの前方インピンジメントが生じる可能性があり、注意が必要です。

矢状面では、大腿骨は遠位解剖軸に垂直に骨切りを行う

伸展位設置ではノッチ形成のリスクが高くなる

特にPSを用いる場合、過度な屈曲位設置は避ける

脛骨の矢状面アライメント

脛骨の矢状面アライメントはCRとPSで目標が異なるため、注意が必要です。

CR型では脛骨の後傾は、PCLの緊張や可動域、屈曲ギャップなど様々な要素に影響を与えます。

後傾が小さくなると、PCLの緊張が高まり屈曲ギャップは小さくなります。その結果術後の可動域が小さくなる可能性があります。

そのためCRではPCLの緊張を保つためにも、術前と同程度の後傾を目指すことが望ましいと考えられています。

しかし10度以上の後傾は、インサートへの負荷が大きくなることが知られており、術前と同程度を目指すが、10度程度が限界と考えておくのが良いでしょう。

CRでは、術前と同程度の後傾を目指す

一方PSでは、PCL切除により屈曲ギャップは大きくなるため、後傾を減じた方が適切な屈曲ギャップは得られやすいです。

機種により適切な後傾角度は異なるので、用いる機種に準じて後傾を設定しましょう。

PSで後傾が大きいと、ポストの前方インピンジメントが生じるため注意が必要です。

PSでは、術前より後傾を減じた方が良い
機種により推奨後傾角度は異なる

このように脛骨の矢状面アライメント(後傾)については一律の目標はなく、CRとPSで目標とする後傾が異なることに留意する必要があります。

回旋アライメント

大腿骨の回旋アライメント

大腿骨の回旋アライメントは、術式により若干異なります。

PCLを温存するCRでは解剖学的指標を参考にするmeasured resection techniqueを用い、PCLを切離するPSでは靭帯バランスを参考にする(modified)gap balancing techniqueを用いまます。

それぞれの詳細については、後日解説します。

ここでは解剖学的指標を用いた大腿骨の回旋アライメントについて解説します。

大腿骨の解剖学的指標には
 ・ Whiteside line
 ・ CEA(clinical epicondylar axis)
 ・ SEA(surgical epicondylar axis)
 ・ PCA(posterior condylar axis)
の4つがあります。

Whiteside lineは、Patellar grooveの最深部と顆間部中央を結ぶ線で、手術中最も再現性が高い指標と言えるでしょう。

CEAは内側上顆の最突出部と外側上顆を結ぶ線、SEAは内側上顆の陥凹と外側上顆を結ぶ線、PCAは後顆を結ぶ線です。

上顆軸撮影(金粕撮影)ならレントゲンでも回旋を予想することが可能ですが、CTやMRIを術前計画に用いることの方が多いと思います。

撮影スライスによっては内側上顆や外側上顆が上手く描出されないこともあるため、なるべく細かいスライス幅で撮影した方が、より正確な術前計画になるでしょう。

またMRIなら後顆の軟骨厚も評価できるため、より術中を正確に反映した形になります。

それぞれの解剖学的指標にどのような関係があるのでしょうか?

Whiteside lineとCEAはほぼ直交する
CEAはSEAより約3°外旋している

SEAはMCLとLCLの付着部の中央を結ぶ線であり、正常膝関節の屈伸軸に近似していると言われています。

大腿骨インプラントが、SEAより内旋位に設置されると膝蓋大腿関節の合併症が起きやすくなり、外旋位に設置されると屈曲位で下腿が内反し大腿脛骨関節内側に荷重が集中してしまう可能性があります。

そのため大腿骨の回旋アライメントは、SEAを基準として、SEAからCEAの間が目標と考えられています。

大腿骨の回旋アライメントはSEAが基準

内旋位設置では膝蓋骨トラッキングが悪くなる
外旋位設置では下腿が内反してしまう



SEAやCEAを術中に正確に把握することは困難であり、PCAが最も再現性高く把握できるランドマークです。

しかしPCAとSEAとの関係は症例毎に異なるため、術前にレントゲン(金粕撮影)やCT・MRIで、PCAとSEAのなす角度を計測する必要があります。

特に外側型OAでは外顆低形成のため、大きな角度になることがあり注意が必要です。

大腿骨の外旋角は、必ず術前に計測しておく必要がある

脛骨の回旋アライメント

脛骨の回旋アライメントは、良好な膝蓋骨のトラッキング、大腿骨コンポーネントの回旋適合性、脛骨骨切り面の被覆などに影響を与えるので重要です。

特に脛骨コンポーネントが内旋位に設置されると、可動域低下や疼痛、再置換の危険性が上がることが知られています。

SEAに平行に設置した大腿骨コンポーネントとの回旋不適合をなくすという目的で、以下の2つの指標が用いられています。

① Akagi line
  膝蓋骨付着部内縁〜PCL付着部を結ぶ線

② 脛骨粗面内側1/3〜PCL付着部を結ぶ線

Akagi lineはSEAと直交すると考えられています。

脛骨コンポーネントの内旋設置は成績不良の因子であり、Akagi lineより内旋設置は避けるべきです。

脛骨粗面内側1/3とPCL付着部を結んだ線は、生理的膝の前後軸よりは少し過外旋となります。

脛骨コンポーネントの回旋については、上記2つの指標の間に設置するのが良いでしょう。

脛骨の内旋設置は成績が悪い

PCL付着部を起点として、脛骨粗面内縁〜脛骨粗面内側1/3までの間を回旋の目安とする

まとめ

今回はTKAで目標とする下肢アライメントと、インプラントの正しい設置目標について記載しました。

良好な長期術後成績を獲得するには、インプラントの正確な設置や軟部組織バランスがとても大切です。

今回の知識を頭に入れた状態で、次回は実際の術前計画として、特に二次元テンプレートの方法について解説します。