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【整形外科専門医が解説】半月板損傷

半月板は膝関節において、衝撃吸収や、スムーズな関節の動き、関節の安定性などに重要な役割を果たしています。

半月板を損傷すると、膝関節の腫脹や疼痛、可動域制限などを引き起こし、長期的には関節軟骨の損傷により変形性膝関節症に至ることもあります。

今回は、半月板損傷の症状や診断、治療法などに関して、網羅的に解説していきます。

半月板の解剖

まず半月板の解剖を復習しましょう。

一番左図は、膝関節を上から眺めた図です。

半月板はCの形をしていて、膝の内側と外側にそれぞれ存在するのが分かります。

次に中央と右の図は、内側半月板を細かく見た図です。

半月板は前方から、前根、前節、中節、後節、後根と名前がついています。

また半月板は前根と後根で脛骨に固定されています。

後述する半月板損傷の治療方針に関わってきますので、半月板への血行についても解説します。

下図のように、半月板の血流は半月板外縁しかないことが知られています。

血液は組織への栄養を届けるのに必須なので、半月板は外縁ほど治癒しやすく、血流がない内縁ほど治癒しにくいことになります。

半月板損傷

半月板損傷の受傷機転

受傷機転としては、膝関節に屈曲と回旋(膝を曲げた状態で捻る)の運動が加わって生じるとされています。

そのため半月板損傷はどのようなスポーツ種目においても生じる可能性があります。

スポーツのみならず、加齢性変化や繰り返し負荷に伴う半月板損傷、前十字靭帯損傷に合併して生じる半月板損傷などもあります。

半月板損傷は、膝を曲げた状態で捻ることで生じることが多い

加齢や繰り返し負荷、前十字靭帯損傷などに合併することも多い

半月板損傷の形態

半月板損傷の損傷形態は様々です。

大きくは下図のように分類されますが、2種類以上の損傷形態を合併する複合断裂を呈することもあります。

半月板損傷の症状

半月板損傷の症状は、膝の痛みと腫れがメインです。

半月板損傷により滑膜に炎症が起き、痛みや関節水腫を引き起こします。

それ以外に
 引っかかり感 ー キャッチング
 膝が動かなくなる、特に伸びなくなる ー ロッキング
 外れる感じ ー 亜脱臼感
など、実際は多様な症状が出現します。

全てが半月板由来の症状ではないこともあり、丁寧な問診・診察・画像検査が必要になります。

半月板損傷では、痛みや関節水腫だけではなく、多様な症状が出現する

ロッキング(膝が伸びなくなってしまった)した場合は早急に処置が必要

半月板損傷の診断

受傷機転(怪我の仕方)と、その後の症状の経過はとても大切な情報です。

担当の先生にきちんと経過を説明するようにしましょう。

半月板損傷の診断は、主に徒手検査(身体診察)と画像検査によります。

徒手検査として、実際に痛みや異常音を誘発するテストを行い、半月板損傷が疑われる場合はMRIを行います。

MRIは半月板損傷の有無だけでなく、その損傷形態も把握できる有益な検査です。

大腿骨と脛骨の間にある、黒い三角形が半月板です。

外側の半月板は黒一色ですが、内側の半月板は内部に白い線状の亀裂が入っており、これが半月板損傷のサインです。

白い線の走り方で断裂の様式も判別できます。

半月板損傷の診断にはMRIが必須

半月板損傷の治療

半月板損傷の治療には、保存加療と手術があり、手術には切除術と縫合術があります。

手術は関節鏡を用いて、低侵襲に行うことができます。

順に解説していきます。

保存加療

保存加療とは、手術によらず症状改善を目指す治療法で、消炎鎮痛薬の使用や関節内注射、リハビリなどを行います。

半月板損傷による症状が比較的軽度で、日常生活に支障がない場合に適応となります。

また、損傷された部位が血流の存在する場所で、ある程度自然治癒が見込める場合も保存加療の適応となります。

保存加療は可動域の改善、筋力の強化・維持を目的としたリハビリが主体です。

特に大腿四頭筋は膝への負担を軽減し、膝を安定化させる役割を持つので大切です。

炎症が強い時期は、膝への負担を減らすため、安静やアイシングなどの消炎処置、可動域制限や松葉杖使用による荷重制限を行います。

経過中は炎症(特に関節水腫)をコントロールすることが大切で、必要に応じて薬物療法や関節内注射も行います。

関節内注射ではヒアルロン酸が代表で、関節内の潤滑性を高め、炎症を鎮める効果があります。

関節内に多量の関節液が溜まった場合は、関節穿刺により関節液を排出します。

半月板損傷の保存加療

・症状が比較的軽度な場合に適応となる治療法

・ヒアルロン酸注射やリハビリ(大腿四頭筋訓練や可動域訓練など)が代表

半月板切除術

半月板を切除すると変形性膝関節症の発症率が高まることが知られています。

過去の研究では、半月板部分切除により関節の接触圧が、内側で2倍、外側で4倍に増大するとされています。

一方半月板を縫合すると接触圧は改善するとされています。

半月板切除
 → クッションが少なくなるため、関節の接触圧上昇
 → 将来の変形性膝関節症のリスク


そのため半月板損傷の手術では、将来のことを考え、できる限り半月板を温存すべき、という考えが最近の主流です。

つまり半月板切除術の適応は、半月板縫合が困難な半月板損傷ということになります。

半月板損傷に対する近年の考え方
 切除術ではなく、縫合術により半月板を温存すべき


しかし、加齢性変化が基盤にあるような症例や、陳旧例(半月板損傷後、時間が経過している場合)などでは、切除術が行われることも多くあります。

            引用:AAOS

上図の様に、切れた半月板を必要最低限の範囲で切除を行います。

一般に半月板切除では、術直後より荷重を許可し、積極的に可動域訓練や筋力訓練を開始し、比較的早期にスポーツへ復帰します。

後述しますが、半月板縫合術ではリハビリに長期間を要すこともあり、早期のスポーツ復帰や社会復帰のため、切除術を希望される場合もあります。

担当医とよく相談し、最大の効果が得られる手術方法を検討して下さい。

半月板縫合術

半月板の血流は外縁1/3が主であり、血流がない部分は損傷すると治らない、と考えられていました。

そのため大部分の半月板損傷は切除するしかなく、血流がある辺縁の断裂に対してのみ縫合術が行われていました。

近年は半月板温存がトレンドであり、縫合手技や縫合デバイスも次々に改良されて縫合術の適応は拡大し、件数は年々増加しています。

血流が少ない部分での半月板の断裂に対しても、癒合を促進するような工夫を併用し、積極的に縫合術が行われています。

技術の進歩により、半月板縫合術の適応は拡大している

現在は積極的な縫合術により、半月板温存が試みられている

            引用:AAOS

切除術と異なり、縫合部への負荷を避けるため、リハビリはゆっくり行います。

縫合部位や縫合方法によって若干の違いはありますが、2〜3週間程度の固定を行い、その後可動域訓練や部分荷重を開始することが一般的です。

ジョギングには3ヶ月、スポーツ復帰には半年程度かかることもあります。

リハビリに時間がかかることよりも、半月板を温存することのメリットは大きいのです。

切除術と比べて縫合術では、手術後のリハビリ期間は長期に渡る

半月板手術の合併症

関節鏡手術は比較的合併症が少ない手術ですが、縫合術では神経・血管損傷に注意が必要です。

以前、膝の後方には大切な神経・血管が走っていることを解説しました。

【整形外科専門医が解説】膝周囲の解剖整形外科専門医が、膝の病気やスポーツ外傷を学ぶ上で、最低限必要となる膝周囲の解剖を詳しく解説します。 ...
               引用:Visible Body

上図は膝を後方から見た図ですが、膝関節の後方には神経・血管は密に走行しているのがわかります。

そのため神経・血管に近い部分の半月板を縫合する際は、関節鏡操作だけでは危険な場合もあり、別に傷を加え神経・血管をよけることで安全に縫合を行います。

また半月板縫合術では、縫合部で再断裂を来たすことがありますので、手術後に膝の調子が悪い時は、早めに病院を受診するようにしてください。

まとめ

今回は半月板損傷について、まとめました。

半月板は膝関節において、衝撃吸収やスムーズな関節の動き、関節の安定性などに重要な役割を果たしています。

半月板を損傷すると、膝関節の腫脹や疼痛、可動域制限などを引き起こし、長期的には関節軟骨の損傷により変形性膝関節症に至ることもあります。

膝の痛みや腫れが続く時は、放置せずに整形外科できちんと診断を受け、適切な治療を行ってください。

次回は特殊な半月板形態である、円板状半月板について解説します。