前回は変形性膝関節症の病態や症状に関して記載しました。
今回から複数回に渡って、変形性膝関節症に対する治療を解説していきます。
まず治療編第1弾として、運動療法と装具療法の解説をします。
変形性膝関節症の治療は長期間に及びます。
そのため、全てを医師任せにせず、患者さん自身が「自分の病気は自分で治す」という主体的な意識を持つことがとても大切です。
現在日本における変形性膝関節症の患者さんは潜在的に約3000万人程度(症状がある方は約1000万人)と推計されています。
そのうち手術を受ける患者さんはわずか約1%程度であり、変形性膝関節症の治療は保存療法(手術以外の治療法)が基本となります。
運動療法
日本では変形性膝関節症の治療は痛み止めと注射が主流になっています。
しかしこれらでの症状改善効果は一時的であり、治療費や医療費も増大してしまいます。
国際関節症学会では変形性膝関節症について
「薬を用いない治療を中心にして、薬の治療は補助的に用いる」
ことが推奨されています。
国際関節症学会の勧告を受けて、日本では運動療法の中でも
「筋力強化訓練」 「有酸素運動」 「可動域拡大」
の3つを特に推奨しています。
引用:変形性膝関節症の管理に関する OARSI 勧告
OARSI によるエビデンスに基づくエキスパートコンセンサスガイドライン
(日本整形外科学会変形性膝関節症診療ガイドライン策定委員会による適合化終了版)
2022年現在、日本整形外科学会も変形性膝関節症ガイドラインを策定中ですので、完成したら紹介したいと思います。
運動療法の効果
痛みがある場合、「まずは安静に」と考えられています。
確かに痛みが非常に強い時には、一時的な安静が勧められます。
しかしずっと安定にしていると、膝を支える筋力が衰えて膝への負担が増加し、ますます痛みが強くなるという悪循環に陥ってしまいます。
また運動不足は肥満にもつながります。
最近はメタボリックシンドロームが問題視されていますが、その予防はとても大切です。
適度な運動は、膝を支える筋肉を鍛えたり、膝関節の動きを改善することができる上に、肥満も防ぐことができ、変形性膝関節症の症状改善に効果的です。
筋力強化訓練
膝を支える筋肉で最も重要なのが、太ももの前にある大腿四頭筋です。
四頭筋という名前の通り、4つの筋肉(大腿直筋・外側広筋・内側広筋・中間広筋)の集合体です。
これらの筋肉は膝を動かす働きを担うほか、膝を安定化させ膝への負担を減らす働きがあるので、日頃から鍛えることが膝の痛みを軽減するのに役立ちます。
代表的な大腿四頭筋のトレーニングを2つ紹介します。
① 椅子に浅く腰掛け、右膝を伸ばす
② 右膝を伸ばしたまま
踵を床から10cm程度あげ
5秒〜10秒間キープする
③ ゆっくり右脚を下ろす
① 床に膝を伸ばして座り、両手を後ろにつく
② 右膝の下にタオルやクッションを置く
③ クッションを押しつぶすように右脚に力を入れ
5〜10秒間キープする
引用:日本整形外科学会
どちらの運動も、片脚を10回ずつ、1日3セットを目標に行いましょう。
有酸素運動
変形性膝関節症の運動療法では有酸素運動、特にウォーキングが薦められており、脂肪燃焼や筋力アップに役立ちます。
軟骨のすり減りを防ぐため、変形性膝関節症の方は痛みを感じない歩き方で、1日5000歩程度に抑える必要があります。
歩いていて膝が痛くなった時は、痛みを我慢せず、ウォーキングをやめて休みましょう。
膝の痛みが治ったらゆっくりと引き返し家に戻るようにして下さい。
プールに通える方は、水の浮力で膝への負担を軽減できるので水中ウォーキングもおすすめです。
・ ウォーキングの前後にしっかりとストレッチを行う
特に中高年以上の方は、筋肉の柔軟性が衰えて硬くなっています
・ ウォーキングシューズを履く
クッション性が高いので、膝への負担が軽減されます
・ できるだけ平地を歩く
坂道や階段は膝への負担が大きくなります
可動域拡大
変形性膝関節症では膝周囲の組織(靱帯や関節包、筋肉など)が硬くなってしまい、可動域が狭くなります。
安静にして膝を使わない生活を続けると、可動域はますます狭くなってしまい日常生活にも大きな支障が出てしまします。
そのため変形性膝関節症の方は膝を曲げる運動を行い、膝関節の可動域を広げることが大切です。
一度固くなった可動域を戻すのは大変です。
代表的な膝の可動域拡大訓練を2つ紹介します。
① 膝を伸ばして座り、踵の下にタオルを置く
② 踵をゆっくり滑らせて、膝をできる限り曲げる
③ 踵をゆっくり滑らせて、膝をできる限り伸ばす
① 湯船の中に膝を伸ばして座る
② 踵をゆっくり滑らせて、膝をできる限り曲げる
③ 踵をゆっくり滑らせて、膝をできる限り伸ばす
引用:日本整形外科学会
特にお風呂での可動域訓練はとても有効です。
次の物理療法で説明しますが、膝を温めることで、
組織の緊張がほぐれて可動域が拡大しやすくなる
血流が良くなることで、炎症性サイトカインの除去を促進(抗炎症効果・鎮痛効果)
などのメリットがあり、効果的に可動域訓練を行うことが出来ます。
ただし入浴しながらの運動はのぼせることがあるので、短時間だけ行うのが良いでしょう。
物理療法
物理療法とは熱や水、光や電気などの物理的なエネルギーを用いる治療法のことで、運動療法とともに慢性の疾患である変形性膝関節症に対しとても有効な治療法です。
本章では物理療法の中でも、特に患部を温める温熱療法に焦点を当てて説明していきます。
温熱療法とは、体を温め、血行を良くする治療方法です。
血流を改善することで循環が良くなり、組織の柔軟性改善や抗炎症効果・鎮痛効果などが得られます。
お風呂や温泉などで疲れを癒すのも立派な温熱療法の一つです。
病院で行われる温熱療法には「ホットバック」「赤外線」「超短波」「極超短波(マイクロ波)」などがあります。
ホットパックや赤外線は、熱を皮膚から体内に伝えて体を温めますが、ほとんどが皮膚表面で吸収されてしまいます。
一方、超短波やマイクロ波は、体内に深く入り込む電波の作用によって、直接筋肉や関節を温めることが出来ます。
病院での物理療法だけでなく、セルフケアとしてご自身でホットパックや入浴などもとても効果的です。
最近では超短波やマイクロ波を利用した家庭用の医療機器も販売されていますが、使用できない方もいますので、まずは医師の指示を仰ぐようにして下さい。
・ 急性炎症
・ 悪性腫瘍
・ 感覚障害や意識障害
・ 出血傾向
・ 循環障害や動脈硬化
マイクロ波を使用した治療は
・ ペースメーカーなど 体内埋め込み型医療用電子機器を使用している人
・ 人工関節など 体内に金属を埋め込んでいる人
・ 妊娠中や成長期
などの場合も行うことが出来ません。
装具療法
変形性膝関節症の保存療法の一つに装具療法があります。
装具には関節の変形を治す効果はありませんが、膝への負担を軽減するのに役立ちます。
サポーター
サポーターの主な効能は患部を温めることです。
前述のように患部を温めることで炎症を抑え、痛みを軽減する効果が期待できます。
足底板
変形性膝関節症では、一般的に足の片側が高くなっているインソールを使用し、膝への負担を減らします。
O脚の場合膝の内側に体重負荷が集中し、内側の軟骨や半月板がすり減り骨が変形してしまいます。
そこで足の外側が高くなっている足底板(外側楔状足底板)を使用することで、下肢の角度を若干矯正し内側への負担を軽減することが出来ます。
足底板は変形性膝関節症の初期~中期で変形がそれほど強くない時期に有効です。
まとめ
今回は変形性膝関節症の治療の中で、運動療法と物理療法、装具療法に関して説明しました。
特に運動療法は、薬や注射、手術などに頼らず、自身で行える最良の治療法です。
変形性膝関節症の病期に関係なく、継続することがとても大切です。
次回は変形性膝関節症の治療第2回として、薬物療法に焦点を当てて解説します。