大学病院で整形外科専門医として膝関節・スポーツ外傷を専門に扱う筆者が、半月板損傷に対する基本事項から手術手技、リハビリまで網羅的に解説します。
今回は第4回として、半月板損傷に対する保存療法を扱います。
ロッキングしている場合などを除き、保存療法は半月板損傷治療の第一選択であり、とても大切な治療法ですので、十分に理解しましょう。
今回も教科書的な内容だけでなく、実臨床に即して解説して行きます。
今までの復習
半月板が損傷する原因は大きく「怪我」と「加齢」が考えられます。
膝は捻り動作に弱く、スポーツや交通事故などで強い衝撃が加わると半月板が損傷してしまいます。
半月板は主に水とコラーゲンから構成されますが、加齢とともに減少し脆くなります。
そうすると日常生活動作だけでも半月板が損傷してしまうことがあります。
これを変性断裂と呼びます。
上図は内側半月板後節の関節鏡所見です。
辺縁がバサバサで、実質も変性して複合的に断裂しているのが分かります。
特に膝後内側は変性断裂の好発部位で、しゃがんだ時など深屈曲動作で強い痛みが生じます。
半月板は血管が乏しい組織で、修復に必要な栄養が十分に届かないため、一度損傷してしまうと自然治癒は見込めません。
上図は半月板への血流を表した図ですが、半月板外縁のRed zoneを除き、内側に向かうほど血流が低下、治癒しづらくなります。
半月板が断裂した状態が続くと、骨の表面にある軟骨にも悪影響を及ぼし、膝変形を助長してしまう可能性があります。
そのため若年者の半月板損傷は手術適応となることが比較的多いです。
半月板損傷の代表的な自覚症状としては
・痛み
・可動域制限
・引っかかり感(catching)
・嵌頓(locking)
・関節水症
などが挙げられます。
一般的にcatchingやlockingを認める場合は手術適応になることが多いです。
また多量の関節水症を繰り返す場合は、半月板損傷により滑膜が強い炎症を起こしているので手術が必要になることもあります。
中高年以降でcatchingやlockingがなく、かつ症状が軽微で、患者が手術を希望しない場合には、保存療法を選択することになります。
今回は半月板損傷の保存療法にフォーカスを当てて解説していきます。
半月板の保存療法
半月板損傷の手術適応について
保存療法を考える際には、まず半月板損傷の手術適応を知っている必要があります。
加齢による変性が原因の場合、catchingやlockingだけでなく、疼痛により日常生活に大きな支障をきたしている場合などが手術の適応になります。
スポーツ選手の場合は本人やチームの都合を加味する必要があり、手術の適応や時期は判断に迷います。
膝痛の訴えがあり、MRIで半月板損傷を認めても、その痛みが半月板由来のものかを確実に判断するのが難しいこともあります。
パフォーマンスに大きな影響がない場合や、半月板外周の小さな損傷では、まず保存療法を選択する場合が多いです。
しかし闇雲に手術時期を伸ばす(半月板損傷を放置)ことで、特にスポーツ選手のように膝への負荷が多い患者では、救える半月板が救えなくなってしまうため、将来を考えると半月板組織を温存するためには早期の修復が必要です。
スポーツ選手の場合、一律に手術適応を判断することは難しく、個人の症状はもちろんですが、大会のタイミングやチーム内の状況を総合的に考えることが必要になります。
半月板損傷に対する保存療法の実際
半月板損傷の保存療法は、ROMの改善、筋力強化・維持を目的としたリハビリテーションが主体となります。
その中で特に関節炎(関節水症)や疼痛をコントロールすることが重要であり、活動量や運動量の制限、必要に応じて薬物療法や関節内注射も行います。
関節炎のコントロール
関節炎、特に関節水症が持続すると、内側広筋の筋萎縮が生じるため、関節炎のコントロールはとても大切です。
関節水症を認める場合には、アイシングや弾性包帯による圧迫、運動量制限や松葉杖を用いた荷重制限などが必要です。
ROMの改善
急性期においては、lockingの他、筋の防御性収縮によりROM制限が起こります。
防御性収縮が続くと、乳酸蓄積と循環障害で酸欠が起こり、疼痛が助長されてしまいます。
十分なリラクゼーションを得た上で、ヒールスライドなどの自動介助運動から開始し、ROMの改善を図ります。
筋力強化・維持
大腿四頭筋(特に内側広筋)の筋活動を高めることが大切で、代表的にはパテラセッティングなどを指導します。
まとめ
半月板損傷に対する治療の第一選択は保存療法です。
しかしlockingを来たしている場合や、疼痛やcatchingにより日常生活に大きな支障を来たしている場合は早期の手術を考慮する必要があります。
保存療法の代表は、ROMの改善と筋力強化が主になりますが、関節炎(関節水症)をしっかりコントロールすることが大切です。
保存療法を行う際には、漫然と続けるのではなく、経過中に効果判定を必ず行い、保存療法の変更や外科治療への切り替えを行うことが必要です。
次回からは外科治療として、半月板切除術と縫合術について解説します。